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【書籍レビュー】オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る

投稿日:2021年3月14日

台湾のコロナ対策で一躍有名になったオードリータン。世界初の自著が出版されたので即購入して読みました。

本を読むまではオードリータンのイメージって、天才で子どもの頃からプログラムを作っていて、起業家で、若くしてAppleの役員になり、台湾で最年少の政治家となったエリート中のエリートというイメージをもっていました。

が、本を読んでみると実は生まれつき体が弱く小さいころから引っ越しを繰り返しいじめられっ子でトランスジェンダーでエリートよりもマイノリティでコンプレックスに悩んでいたいうことがわかります。差別のないWebに傾注し、webで世界中の人と共通の課題に向けてソフトウェアをつくることに喜び・達成感を感じ、それが社会のためにデジタル・AIを活用する、公共の共通の課題のために働く、だれも置き去りにしない世界を作る、という今のオードリーの世界観を形成しています。

いま企業にとってもイノベーション、ダイバーシティ、インクルージョン等が課題となっていますが、オードリー・タンの考え方はビジネスでも役に立つと思いますし、自分の仕事でも「共通の課題を見つける」「少数派の意見を聞く」ことを大事にしたいなと思いました。

 

【要約】オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る

 

オードリータンの生い立ち

13歳のときインターネットでプロジェクトグーテンベルグに参加し世界とつながった。そこで漢字プログラムをつくった。人種、年齢、性別の関係ない世界が居心地よくて魅力を感じた。

14歳になるとインターネットでAIの研究を始めた。世界中の研究者や教授たちと対話していた。学校の勉強はネットより10年遅れていたので中学を退学した。

15歳で出版社を創業し自分が書いた本を売った。SWも開発した。18歳でアメリカに渡りシリコンバレーでSW会社を起業した。検索をアシストするソフトを800万個販売、台湾政府にも購入してもらった。33歳でビジネスから身を引きAppleでデジタル顧問となり人工知能プロジェクトに加わった。

35歳のとき史上最年少で行政院(内閣)に入閣しデジタル担当政務委員になった。

 

私は3つの幼稚園、6つの小学校、1つの中学校で学んだ。意図したわけでは決してないが毎年のように異なる環境に身を置いていた。その結果、世の中にはいろんな人がいていろんな意見があることに自然と気づいた。それは自分の思考に良い働きをもたらしたと実感している。

 

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オードリータンの天才ぶり

8歳で教育用ソフトウェアを作る

私はインターネットよりも早くパソコンと出会い、8歳の頃に最初のプログラムを書いた。それは分数を視覚的に捉えるプログラムで、0から1までの直線があり風船が1/2の位置にあったとして、1/2に等しい分数、例えば5/10と入力するとダーツが飛び出して風船に命中し、等しくなければ外れるというプログラム。多くの子供にとって1/2と5/10が同じというのは決して直観的ではない。1と2は小さく感じ、5と10は大きく感じるからだ。

弟のために書いたものだが、当時はこのような双方向的な学習のためのプログラムをたくさん書いていた。紙にプログラムを書いていたので、パソコンがなければプログラミングができないわけではなく、パソコンがなくてもプログラミング思考はできると考えるようになった。

 

朝起きると解決法が頭に浮かんでいる

私は睡眠の質と時間を重視していて眠っている間も脳に作業をしてもらっている。私は寝る前に仕事に必要な資料を全て読み込む。読み込むだけで判断はしない。頭で判断しようとすると眠れなくなってしまうから。まずは情報のインプットだけ行い、インプットが終わると「明日起きたらこの問題の回答を得なければならない」と思って眠りにつく。

すると翌朝目が覚めたら頭の中に回答が出来上がっている。眠っている間に脳がどのように働いたのか、わたしにはその仕組みがわからない。だがいくら私が政務委員だからといって夢で見たからという理由でそれをほかの人に押し付けることはできない。なぜそれが有効なのか明確に根拠を述べて説明しなければならない。それこそが私に求められるアカウンタビリティ(説明責任)ではないかと思う。

 

24歳のときトランスジェンダーであることを告白

私は成長期には男性ホルモンの量が80歳代の男性と同じレベルだった。そのため男性としての思春期は未発達な状態だった。20歳の頃には男性ホルモン量は男女の中間ぐらいになった。20代で女性の思春期を経験した。このとき自分はトランスジェンダーだと自覚した。

 

1回目の思春期には完全に男性になることはなく喉仏もなく男性としての感情を得ることもなかった。2回目の思春期には完全ではないがバストが発達した。私は男女それぞれの思春期を2~3年ずつ経験したが。普通の男女ほど性がはっきりしていない。24歳のとき自分がトランスジェンダーであることを初めて明らかにした。25歳で名前を唐宋漢からオードリー・タンに変えた。行政院の政務委員に就任する際は、性別を記入する欄に「無」と記入した。

 

マイノリティであるからと言われて否定され自信を失うことはない。マイノリティであるからこそ「他の人とは異なる見方ができるし、他の人には見えない問題が見える。それが説得力があり合理的であれば受け入れられて社会はよりよくなっていくはず。そしてその貢献が認められれば自分が先駆者になっていくことだろう。

 

政治家としての仕事

政務委員へのオファーがきたとき3つの条件を出した。行政院だけでなく他でも仕事ができること、出席するすべての会議・イベントは録音録画により公開すること、誰かに命じられることも命じることもなくフラットな立場から仕事をすること。今もこれは守られている。

 

私の仕事はいたってシンプルで、いろいろな人の話を聞き、共通の価値観を見出すこと。共通の価値観が見つかれば、異なるやりかたから皆が受け入れられるような新しいイノベーションがうまれる。そのためにまず政府の価値観を確立しその価値観を共にする人や起業を集める。私は社会の知恵に完全に頼り切っている。市民の知恵こそが最も大切。社会が望むことをデジタルやAIを使って実現するのが私の役割。

 

私は社会創新センターに4種類のトイレ、男子用、女子用、車いす用、ジェンダーニュートラル用の4種類のトイレをつくった。一度でも少数派になるという経験をした人は、多数派になったときでも少数派を排除するようなことはしない。これが「誰も置き去りにしない」というインクルージョンの考え方。

 

国民の誰もが政治に意見できるようなシステムを作った。従来の民主主義は国民が代表者を選び代表者が政治に参加するが、実際は誰もが代表者に話や相談ができるわけではなく特に弱い立場の者は意見を政治に反映させる手段がない。実際、このシステムで16歳の女子高生の意見が取り入れられプラスチックストローを全面禁止する法律が作られた。私はこのようにインターネット上で全てのひとの意見をまとめるなかで共通の価値観を形成することを目指している。インターネットは間接民主主義の弱点を克服できるツールでありそれこそがデジタル民主主義だと思う。

 

プログラミング思考

プログラミング言語を学ぶのではなくプログラミング思考を学ぶこと。プログラミング思考とは「一つの問題をいくつかの小さなステップに分解し多くの人たちが共同で解決する」プロセスを学ぶこと。「最初から最後まで独りの力で解決方法を考える」やり方とは異なる方法を学ぶことで、どの分野でも通用する「問題解決の方法」が身につくだろう。

 

プログラマーがプログラムをデザインするときに重要なのはどれだけ多くのツールを持っているかではない。これらのツールを利用して、物事を見る方法や複雑な問題を分析する方法を訓練することだ。それが複数の人と共同で問題を解決するための基礎となる。このアプローチを修得する人が増えることで、気候変動などより大規模な共通の問題をより多くの人の力で解決できるようになる。

 

地球規模的な問題に直面すると「こんな大問題に対処するのは不可能だ」と感じることがあるが、それはプログラミング思考ができていないから。一人で解決しようとするのではなく「共同で考えればいい」。そのような複雑かつ大規模な問題を把握する能力を養うことは社会に対する大きな貢献を行うことになる。この土台があって、「共通の価値観をいかに集約していくことができるか」を考えることができるようになる。

 

これからのデジタル・AI社会

台湾のコロナ対策はデジタル技術の活用によりうまくいったが、デジタルやAIによって人間の社会の方向性が変わるわけではないと私は思う。デジタルやAIはあくまでも人間を補佐するもの。中間的な仕事はAIに置き換わっていくかもしれないが、それを鵜吞みにせず最終的に決断し責任をもつのは人間である。

 

公共の価値を生み出すことを求める

もし人と比べることで達成感を求めていたらある日AIのほうがあなたの十倍素晴らしくなっているかもしれない。するとあなたは不快になるだろう。しかし公共の価値を生み出すことに喜びを感じるよう自分を再定義すると、AIが10倍の結果を出せば10倍の公共価値が生まれたと思い幸せを感じられる。私たちはそうした価値を重んじることが重要で競争原理に囚われる必要はない。

 

AIの活用によって心にゆとりを持てる社会を作る

資本主義は市場での競争がすべてであると定義されたらそれは深刻な問題だ。競争社会では強いプレッシャーにより相手に丁寧に接する余裕がなくなり、精神の安定が失われてしまう。現代の資本主義社会の弊害ともいえる。自分の精神が健全で安定していれば自然とスマートで礼儀正しい人間になれる。そういう社会を私は目指し、そのためにデジタルとAIの力を積極的に活用している。

 

デジタル社会で重要となる3つの素養

自発性:誰かに命令されたり指示されたりするのを待たないで、自分でこの世界を理解しようとし何が問題で何ができるのかを考えること。

相互理解:問題解決にあたりいろんな人と考えをシェアし相手を理解しようとすること。自分の価値観を押し付けたりしない。自分と異なる考えの人との接触を恐れない。

共好:相手には相手の価値観があり自分には自分の価値感があり、それを常に頭の片隅に置いてどうやって皆が受け入れることのできる価値観を見つけ出せるのかを考えながら共同で作業すること。

 

オードリータンの唱える3つのキーワード:「持続可能な発展」「イノベーション」「インクルージョン」

これからの世界を開くカギになるのは、AI、5G、クラウド、ビッグデータ、などの技術ではない。すべては「持続可能性」を実現するために何が必要なのかという視点である。台湾の現在の教育の基礎となっている「自発性」「相互理解」「共好」も持続可能性を実現するためのキーワード。

 

今の企業の課題ともいわれるDX(Digital Transformation)のおいても最も重要なのは「持続可能な発展」であり、とりわけ誰も置き去りにしないインクルージョンの姿勢だ。私たちの世代で運用された技術によって次世代の環境が破壊されてしまっては意味がないのだ。

 

イノベーションを進める場合常に言い続けていることは「弱者を犠牲にしてはならない」。イノベーションとはむしろより弱い人たちに優先して提供されるべきものであり、それこそが誰も置き去りにしないインクルージョンである。私たちの社会には多種多様な人たちが生きていることを忘れてはならない。

 

自分とは全く異なる文化、世代、異なる場所にいる人の話を聞くことで世界共通の普遍的な真実・意見を発見することができる。するとこの地球や世界のどの場所にいてもコミュニケーションすることが可能ということがわかる。私も世界各地を訪れたがみな次世代のことを考えており持続可能な開発目標(SDGs)は誰もが納得できる価値観である。普遍的価値を見つけるために異なる考え方をする人たちと交わろう。

 

 

さいごに

本書はのべ20時間に渡るインタビューをもとに編集されたと、あとがきに書いてあります。オードリー・タンの内面が率直にわかる本になっているのかなと感じます。また最終章には、オードリー・タンから見た日本とは、日本へのメッセージが書かれています。興味のある方はお読みください。

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